インスリンと聞くと「怖い」「糖尿病が悪化した証拠」「自己管理ができないからインスリンが必要になった」といった、マイナスの印象を持つ患者さんがいらっしゃいます。しかし、糖尿病という病気は、時が経つとともに病状が変わっていくた め、インスリン療法が必要になる時もあります。
ここでは、糖尿病による合併症を防ぎ、適切な時期にインスリン療法をはじめられるように、インスリン療法がなぜ必要かを一緒に勉強していきましょう。
インスリンと聞くと「怖い」「糖尿病が悪化した証拠」「自己管理ができないからインスリンが必要になった」といった、マイナスの印象を持つ患者さんがいらっしゃいます。しかし、糖尿病という病気は、時が経つとともに病状が変わっていくた め、インスリン療法が必要になる時もあります。
ここでは、糖尿病による合併症を防ぎ、適切な時期にインスリン療法をはじめられるように、インスリン療法がなぜ必要かを一緒に勉強していきましょう。
インスリンとは、ひとの体の中でつくられるホルモンで、唯一血液中のブドウ糖 (血糖) を少なくする働きをもっています。
お腹のちょうど中心にある「すい臓」という臓器に、「ランゲルハンス島のβ細胞」という名前の細胞がたくさんあり、インスリンはこの細胞で作られています。
糖尿病になると、血液中のブドウ糖の割合 (血糖値) が高くなりすぎてしまう状態になります。
この血糖値を下げるためには、「インスリン」が必要なのです。インスリンの作用が不足したり、インスリンの分泌量が減少したり、あるいは両方が同時に起こったりすると、血糖値が高くなってしまうと考えられています。
インスリンは、生きていくために不可欠なホルモンです。インスリンを自分でほとんどつくれない1型糖糖尿病のある方では、発症早期からインスリン療法が必要です。
2型糖尿病のある方では、すい臓を刺激してインスリンを分泌させるお薬が効かなくなったら、インスリン療法をはじめることが一般的です。しかし、最近では疲れ切ったすい臓を休ませることを目的として、早めにインスリン療法を開始することも増えてきました。
インスリンは確実に血糖値を下げるホルモンですから、治療の効果は高いと言われています。しかし、「注射は痛い」というイメージがあり、なかなかインスリン療法を始めることができないひともいます。
しかし、インスリン注入器の注射針は直径約0.23~0.25mmとかなり細く、痛みは少しチクッとする程度です。また、最近の注入器はペンのような形なので、詳しく知らない人が見た場合インスリン注入器と気づかないような外観です。
健康なひとのインスリン分泌は、食事で血糖値が上がったことに反応して一時的に分泌される「追加分泌」と、一日中一定の割合で少しずつ分泌される「基礎分泌」の2つがあります。インスリン治療では、これらの2つのインスリン分泌のうち不足している分をインスリン注射で補います。
インスリン製剤は、大きく3つに分けることができます。
①追加分泌を補うインスリン製剤
②基礎分泌を補うインスリン製剤
③追加分泌と基礎分泌の両方を補うインスリン製剤
これらの3つのタイプのインスリン製剤は、ヒトインスリン製剤とインスリンアナログ製剤という2つの種類に分けることができます。
インスリンは、合計51個のアミノ酸からなるホルモンです。
健康なひとから分泌されるインスリンと同じアミノ酸の並び方でつくられたインスリンが、ヒトインスリン製剤です。
種類 | 特徴 | |
追加分泌を補うインスリン製剤 | 速効型インスリン (レギュラーインスリン (R) ) | 注射してから約30分で作用が現れるため、食事の30分前に投与する必要があります。作用持続時間は約8時間です。 食事をとった際に急激に上がる血糖値に対応します。 |
基礎分泌を補うインスリン製剤 | 中間型インスリン (NPHインスリン) | 注射してから約1時間30分後に作用が現れ、1〜3時間の間にピークとなります。作用の持続時間は24時間です。 |
追加分泌と基礎分泌の両方を補うインスリン製剤 | 混合型ヒトインスリン | 速効型と中間型のインスリンを混合した製剤です。混合の比率によってさまざまな種類があります。 注射してから約30分で作用が現れるため、食事の30分前に投与する必要があります。作用持続時間は、基礎分泌のインスリンの作用として約24時間続きます。 |
2001年に新しいタイプのインスリン製剤、インスリンアナログ製剤が登場しました。インスリンアナログ製剤の登場により、患者さんがより快適にインスリン療法を行うことができるようになりました。インスリンアナログ製剤のさまざまな特徴を、下の表で確認してみましょう。
種類 | 特徴 | |
追加分泌を補うインスリンアナログ製剤 | 超速効型インスリンアナログ | 注射してから数分後に作用が現れるため、食事の直前または食事開始時に投与します。持続時間は3~5時間と短いのが特徴です。食事をとった際、急激に上がる血糖値に対応します。従来よりもさらに作用発現時間が速く、必要に応じて食事開始後 (20分以内) に投与することができる製剤もあります。ヒトインスリン製剤の速効型インスリンに比べ、食後の高血糖をより改善させ、低血糖のリスクの軽減も期待できます。 |
基礎分泌を補うインスリンアナログ製剤 | 持効型インスリンアナログ | 注射してから約1時間後に作用が現れ、作用持続時間は約24時間です。 ヒトインスリン製剤の中間型インスリンに比べ、作用持続時間が長くなり、多くの方が1日1回の投与で、基礎分泌が補充できるようになりました。 また、効果の波が少なくなったことにより、夜中に低血糖が起こる可能性が軽減されています。 |
追加分泌と基礎分泌の療法を補うインスリンアナログ製剤 | 二相性インスリンアナログ | 超速効型と中間型インスリンの両方の特徴があります。 注射してから数分後に作用が現れるため、食事の直前に投与します。 混合型ヒトインスリンに比べ、食後の高血糖をより改善させ、低血糖のリスクも軽減されます。 懸濁製剤であるため、よくまぜてから使用する必要があります。 |
配合溶解インスリンアナログ | 超速効型と持効型インスリンの両方の特徴があります。 注射してから数分後に作用が現れるため、食事の直前に投与します。 透明な製剤のため、投与をする際にまぜる必要がありません。 |
次に、これらのインスリン製剤を使用したインスリン療法について勉強しましょう。
一般に、次の状態に当てはまる患者さんに対して、インスリン療法が必要と判断されています。
これ以外にも、2型糖尿病ではすい臓を休める目的で、比較的早期にインスリン療法を開始する場合があります。
これまで紹介してきましたインスリン製剤を使用するインスリン療法には、使用するインスリンの種類や1日に投与する回数によって主に次のようにわけることができます。全てのインスリン療法では、飲み薬 (経口血糖降下薬) との併用という選択もあります。
どのタイプのインスリン製剤を使うか、またどのインスリン療法を選択するかは、患者さんの糖尿病の状態によってさまざまであり、多くの選択肢があります。自分のライフスタイルや糖尿病の進行状況をかかりつけ医とよく相談し、自分にあったインスリン療法を選びましょう。
インスリン製剤や治療の方法に多くの選択肢があることに合わせて、インスリン療法を行うための注入器もいくつか種類があります。続いて、インスリン注入器について勉強しましょう。
インスリン療法は、患者さんが自分で毎日行う自己注射が基本です。インスリン製剤と同じように、注入器も改良が進んでいます。現在、インスリン自己注射には、プレフィルドタイプやカートリッジ交換タイプといったペン型のインスリン注入器が用いられることがほとんどです。
あらかじめインスリン製剤がセットされ、ペン型の注入器と一体になっています。カートリッジを取り替える手間がかかりません。カートリッジ製剤の注入器よりも軽いのも特徴です。
注入器とインスリンが一体になっているため、注入器が壊れる心配がなく、災害時においても利便性が報告されております。
プレフィルドタイプの廃棄の仕方についてはこちら
ノボ ノルディスク ファーマのプレフィルドタイプのインスリン製剤は、焼却したときに水と二酸化炭素に分解されるプラスチックを使用しています。
インスリンが入ったカートリッジをセットして使います。カートリッジが空になれば、新しいカートリッジに取り替える必要があります。
インスリン注入器同様、注射針も日々進化しています。次に、注射針について勉強しましょう。
インスリン注射に使用する針は、採血用などの針と比べて非常に細いのが特徴です。技術の進歩によって、針の長さや太さは、ますます短く細くなってきました。また、針が身体に刺さる際により抵抗がなくなるような工夫もされていて、『痛みは
ほとんど感じない』といった感想もよくきかれます。
針の太さは、ゲージ (G)
という単位で表され、数字が大きくなるほど細くなります。インスリン注射で使われるものは、30Gから34Gです。献血などで使われる針の太さがおよそ27Gですから、インスリン注射の針はとても細いことがわかります。
針の長さは、3mm~8mmと種類があります。短ければいいというものではなく、体型によって好ましい長さがあります。
注射針の長さによるちがいに加えて、針基 (はりもと) と呼ばれる台座の形状が違うものが出てきています。
注射針は各自治体によっては廃棄が制限されている場合がありますので、医療機関・自治体に必ずご確認ください。
次はいよいよインスリンの投与の仕方について勉強しましょう。
インスリン注射は、皮下注射といって皮膚の一番薄いところと筋肉の間に打ちます。
筋肉注射のように一般的に痛みの強い注射と比較して、皮下注射は痛みが少ないといわれています。
凍結を避けるため冷却風のあたらない、ドアポケット (バターケース) に保管しましょう。
インスリン製剤は、一度でも凍結してしまうと薬液が変化したり、凍結により注射器が故障することがあります。
使用期限は、ラベルや外箱に記載されています。
他人や子供の手の届かないところに保管するなど、保管場所にも配慮が必要です。
注入器の故障やインスリンが漏れてしまう原因となることがあります。
事故や感染症の原因に繋がります。
万が一インスリン注入器が故障したり、インスリン製剤を紛失したりした場合に備えましょう。
A1:1型糖尿病のある方のようにインスリン療法が絶対に必要な患者さんは、原則として継続する必要があります。しかし、2型糖尿病のある方の中には、すい臓がインスリンを出す力がまだある患者さんがいます。そのような患者さんでは、たとえインスリン療法を始めてもコントロールが改善されれば、インスリン療法から飲み薬に切り替えることができる場合があります。インスリン療法ですい臓を一時的に休ませてあげることを目的にする場合は、比較的早期にインスリン療法を開始する必要があります。
A2:朝食時と夕食時のみ、あるいは、1日1回だけ注射するタイプのインスリン療法もあります (「インスリン療法」を参照してください) 。これらの方法では、外出先でインスリン製剤を投与しなくても治療を行えます。糖尿病の状態によって、この治療方法を選択できるかどうかは異なりますので、かかりつけ医の先生に相談されることをお勧めします。
A3:インスリン注射を開始した直後や別のインスリン製剤に変更した時は、患者さん一人ひとりに合ったインスリン単位を見極めるために、インスリン単位が変わる可能性があります。特に低血糖を起こさないよう、単位は慎重に設定されるため、単位を徐々に増やしていく場合もあります。
また、生活の変化や年齢によっても必要なインスリン単位は変化しますので、インスリンの単位の変化は、その時々の自分にあった量になっていると考えましょう。インスリン単位を変えても、低血糖や高血糖が続くようであれば、かかりつけ医に速やかに相談してください。
A4:食事・運動療法では、原則として低血糖を起こすことはありません。また、飲み薬 (経口血糖降下薬)
の中でも、お薬の作用として低血糖を起こしにくい種類のお薬もあります。それに比べ、インスリンは多く投与しすぎてしまうと低血糖になります。そうした意味では、飲み薬よりも低血糖に注意する必要があります。
低血糖の症状を理解し、低血糖がどういった状況でおこりやすいのかを学ぶことで重症低血糖を防ぐことにつながります。
A5:『インスリン療法を始めたことで、コントロールが改善し、油断して食べ過ぎてしまった』『低血糖が怖くて食べてしまった』『血糖が急に下がってお腹がすくようになり食べてしまった』ということが重なり、体重が増えてしまう場合もあります。インスリン療法を続けていても、糖尿病の治療の基本は食事・運動療法です。また、低血糖についても、きちんと対応する方法を理解すれば、インスリン療法を続けながら体重を維持していくことは、決して難しいことではありません。
A6:インスリン療法を開始するときに、1週間程度、インスリン療法についてさまざまなことを教わる入院を行うことも多いのですが、最近では通院をしながらでもインスリン療法を始めることも増えてきました。
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