糖尿病について徹底解説。血糖値・HbA1cから
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注射薬であるインスリンは、製剤そのものに加え、注入器も開発が重ねられ、今も進化し続けています。また、近年登場した、GLP-1受容体作動薬も、有用な注射薬のひとつとされています。今回は、糖尿病治療における注射薬の進歩について解説します。

 

インスリンの発見は1869年(明治2年)、ドイツのランゲルハンスが、すい臓にある細胞を発見したことに始まります。1921年(大正10年)には、すい臓からの抽出物が、血糖値を下げることが発見されました。翌年、初めて1型糖尿病の14歳の少年にすい臓の抽出物(インスリン)が投与され、劇的な効果を示しました。1923年には最初のインスリン製剤が発売になり、現在に至るまでインスリン製剤と注入器は、車の両輪のごとく、共に開発が進んできました。

 

1920年代に登場した初期のインスリン製剤は、ウシやブタのすい臓を原料としていました。そのため、アレルギーを起こすこともあり、また、原料の枯渇も危惧されていました。インスリン製剤は、糖尿病治療には不可欠な薬です。当時は生産量も少なく、高価な薬でした。1950年代になると、インスリンのアミノ酸配列が解明され、ヒトインスリンの合成に成功し、アレルギーの問題は減少しました。1980年代に入ると遺伝子工学の発達により、ヒトインスリンの製剤が大量に生産できるという、画期的な進化が訪れました。
一方、糖尿病の病態の解明に伴い、同じ糖尿病でもインスリンの分泌量などは患者さんごとに異なることもわかってきました。そのため、より生理的なインスリン分泌に近付けるために、作用の発現時間や、持続時間の異なる製剤が次々と登場しました。そして、今もなお、新たな製剤の開発が進んでいます。

 

注入器は、当初は金属製、後にガラス製へと変わりましたが、いずれも毎日煮沸消毒が必要でした。1988年にインスリン製剤をカートリッジ式にしたペン型注入器が登場し、1994年にはあらかじめカートリッジが組み込まれた使い捨て(プレフィルド型)の注入器が登場するなど、注入器は1980年代から大きく進化を遂げました。現在では、プレフィルド型が注入器の主流となっていますが、握りやすさ、押しやすさ、目盛の合わせやすさなど、より使い勝手のよい注入器への改良が続けられています。
一方、注射針の進歩もめざましいものがあります。衛生面だけでなく、長さや太さ、痛みを軽くする構造や工夫など様々な改良が重ねられました。現在はほとんど痛みを感じない、使い捨ての針が広く使われています。

現在のインスリンペン型注入器の原点とされる「ノボシリンジ(1925年製造)」

近年、インスリンとは異なるGLP-1受容体作動薬という注射薬が登場しました。GLP-1は、食事を摂った時に、小腸下部から分泌される消化管ホルモン(インクレチン)のひとつです。すい臓のβ細胞にあるGLP-1受容体に作用して、インスリンの分泌を促します。また、血糖値を上昇させるホルモン(グルカゴン)の分泌を抑える作用もあります(図)。GLP-1受容体作動薬は血糖値が上昇している時に作用し、インスリンとグルカゴンの両方に作用して血糖値をコントロールするため、低血糖を起こす可能性が低いと言われています。
また、GLP-1受容体作動薬はインスリンやグルカゴンの分泌に作用するだけなく、そのほかの効果も期待されています(表)。すい臓のβ細胞を増やす作用、食欲抑制、脳の神経や心臓、血管の内側の細胞などに対する作用が報告されており、今後の更なる研究により、新たな活用法が見出される可能性があります。

現在、GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病の方への使用に限定されていますが、将来的には1 型糖尿病の方への使用も期待されています。1型糖尿病では、血糖値を上昇させるグルカゴンの分泌細胞であるα細胞が残っているため、GLP-1受容体作動薬によるグルカゴンの分泌抑制が1 型糖尿病の血糖コントロールを期待できるのではないかと考えられています。血糖値を下げるインスリンを補うだけでなく、血糖値を上げるグルカゴンの作用を抑えることで血糖値の管理が可能かどうか、研究が続けられています。

 

糖尿病の治療は食事・運動療法を基本とし、必要に応じて経口糖尿病治療薬やGLP-1受容体作動薬、インスリン製剤などが処方されます。薬の選択は患者さん一人ひとりの病状、生活スタイルなどを考慮して決定されます。注射薬の開発、改良に伴い、製剤や投与回数が変わったり、注入器が変わったりした方もいらっしゃるでしょう。
ヒトの体のしくみ、病気の発症過程や検査法など、科学技術の進歩に伴い、様々なことがわかってきました。これらは「治療」へとつながっていきます。多様化している患者さんそれぞれの病態や生活スタイルに合った薬を使うことで、よりよい血糖コントロールがより簡単に手に入る時代になりました。
目標としたHbA1cの値に近付けば、やはりうれしいものですし、モチベーションも上がります。そして、糖尿病の合併症を遠ざけることも可能になります。食事や運動量などの生活スタイルが変わった、副作用が気になるなど、何か変化があった時には、遠慮せず主治医と話し合ってみましょう。今の状態よりご自身にあった薬があるかもしれません。進化する薬剤の恩恵にあずかり、よりよい血糖コントロールを実現しましょう。

 

東京女子医科大学 糖尿病センター
岩﨑 直子(いわさき なおこ)

 

次回のテーマは「妊娠と糖尿病」です。

監修 内潟 安子 [ 創刊によせて ]
東京女子医科大学
東医療センター 病院長

編集協力
岩﨑 直子、尾形 真規子、北野 滋彦、中神 朋子、馬場園 哲也、廣瀬 晶、福嶋 はるみ、三浦 順之助、柳澤 慶香
(東京女子医科大学糖尿病センター)
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