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糖尿病アカデミー

糖尿病黄斑浮腫

                                                                        No.16

糖尿病黄斑浮腫は糖尿病網膜症と合併して発症する網膜のむくみです。糖尿病黄斑浮腫とは何か、そして最近の治療法について、東京女子医科大学糖尿病センター糖尿病眼科 北野滋彦先生、福嶋はるみ先生にご解説頂きます。

糖尿病黄斑浮腫と糖尿病網膜症

網膜には、物を見るために重要な役割を果たしている黄斑という場所があります。この黄斑に障害が起こると、視力が大きく低下する原因となります。黄斑浮腫は、黄斑部分がむくんでいる状態です。眼の血管に出血があったり、毛細血管が詰まって、血管に瘤(こぶ)などができたりすると、血液中の成分がしみ出し、むくみが起こります。糖尿病が原因で起こる黄斑浮腫を糖尿病黄斑浮腫と呼びます。
一方、糖尿病網膜症には単純網膜症、増殖前網膜症、増殖網膜症がありますが、どの病期の網膜症にも、黄斑浮腫は合併する可能性があります(図1)。

糖尿病黄斑浮腫の症状

最も多い自覚症状は、「ゆがみ」です。まっすぐ建っている高層ビルがぐにゃりとゆがんで見える、直線のものが波打っているなど、ゆがみを訴える方が多いのが、糖尿病黄斑浮腫の特徴です。
その他、物が大きく見えたり小さく見えたりするという方もいます。毎日読んでいる新聞の見え方が違う、カレンダーの線がゆがんで見えるなど、いつもと違う見え方で気がつく方もいます。また、物を見るために大切な部分に浮腫が起きているので、視力が低下した、見えづらくなったという症状もあります。

糖尿病黄斑浮腫の検査

糖尿病網膜症だけでなく、糖尿病黄斑浮腫を診断するには、眼底や網膜の検査が欠かせません。
網膜の断面図を観察することができる検査には、光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)があります。網膜のどの層に、どのぐらいのむくみがあるかなどを、画像として見ることができます。OCTでの検査は、患者さんにとって痛みやまぶしさがなく、短時間で終わる検査です。
そのほかに、網膜の血管に出血が起きていないか、また、どこの血管がどの程度出血が起きているかを調べるには、蛍光眼底造影があります。蛍光色素の入った造影剤を注射して、眼底の様子を観察します。
必要に応じた眼の検査をし、むくみや出血の原因や場所を特定することは、よりよい治療に繋がります。

糖尿病黄斑浮腫の治療

糖尿病黄斑浮腫の治療には、薬、レーザー治療、硝子体(しょうしたい)手術などがあります。それぞれの患者さんの眼や全身状態、むくみの原因や視力などを考慮して、最も適した治療法を選択します。また、患者さんの希望も組み入れ治療していきます。
薬の治療には、ステロイド薬の治療があります。つい最近、新しい注射薬の選択肢が増えました。抗VEGF(ブイイージーエフ)治療薬と言われる薬で、眼の硝子体内に注射します。網膜のむくみが改善し、視力の改善が期待できる薬です。
むくみの原因となっている毛細血管からの出血や血管の瘤がある場合には、レーザー光線で出血部分を治療する光凝固法などを行うこともあります。レーザー治療も、より低出力で物を見るために重要な黄斑を傷つけにくい治療法などが開発されています。
また、抗VEGF治療薬とレーザー光凝固療法と組み合わせて、抗VEGF治療薬の治療回数を減らす方法など、患者さんの状況に応じて、様々な治療が行われています。
どの治療法でも、早い方では2週間ほどで、視力が改善したり、ゆがみが解消したりします。

眼科以外の治療の重要性

糖尿病黄斑浮腫や糖尿病網膜症の根本の原因には、やはり原疾患である糖尿病が関与しています。糖尿病の治療をしっかり行い、よりよい血糖管理を維持することは、眼科の治療にも繋がります。また、糖尿病以外に、高血圧症や脂質異常症があると、網膜症を発症するリスクが高くなるため、血圧や脂質の管理も十分に行いましょう。良好にコントロールできれば、発症を防ぐだけでなく、進行を遅らせることも可能です。

視力を守るためにできること

糖尿病治療では、合併症予防のため定期的な眼科の受診を勧めています。糖尿病網膜症や糖尿病黄斑浮腫では自覚症状がないことも少なくありません。また、自覚症状のある場合には、すでに進行していることもあります。定期的な眼科の受診は、予防の最善策です。
また、自分でできる手軽な検査もあります。アムスラーチャート(図2)という格子の図柄を片眼ずつ見てみましょう。線がゆがんで見えたり、視野が欠けるなど、見え方に異常があれば、是非眼科を受診して下さい。早期発見、早期治療で視力を守るようにしましょう

北野滋彦(きたのしげひこ)
福嶋はるみ(ふくしまはるみ)
東京女子医科大学糖尿病センター 糖尿病眼科

次回は「糖尿病で高血圧のある方へ」を予定しています。

監修 内潟 安子 [創刊によせて]
東京女子医科大学
東医療センター 病院長

編集協力
岩﨑 直子、尾形 真規子、北野 滋彦、中神 朋子、馬場園 哲也、廣瀬 晶、福嶋 はるみ、三浦 順之助、柳澤 慶香
(東京女子医科大学糖尿病センター)
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