糖尿病について徹底解説。血糖値・HbA1cから
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糖尿病の治療において、低血糖(重い症状の低血糖だけでなく、自覚症状の少ない低血糖や、夜間に起こる低血糖など)を起こさないことも大事なことです。
今回は低血糖と治療の関係について解説します。

 

糖尿病の治療の目標は、「血糖値を正常域に保持すること」です。しかし、糖尿病治療薬の服用中に、血糖値が下がり過ぎて、低血糖を起こしてしまう場合があります。食事・運動の量、お薬の量やタイミングなどによって、薬の効果が変わるためです。
通常、血糖値は90~130mg/dLに維持されています。血糖値がおよそ70mg/dL以下になると、血糖を上げようと体が反応してホルモンが働きます。すると、動悸、ふるえ、冷汗などの症状が出てきます。これらの症状は、血糖値が下がっていることを気付かせる「信号」と言えます。
さらに血糖値がおよそ50mg/dL未満になると、頭痛、空腹感、生あくびが生じ、意識レベルが低下してきます。脳は大部分のエネルギーをブドウ糖でまかなっていますので、重度の低血糖になると脳に影響がおよびます。意識の低下、体が思うように動かないなどの症状が現れるのは、このためです。さらに進んで昏睡状態に陥れば、命に関わることもあります。
動悸、ふるえ、冷汗などの軽度の低血糖では、患者さん自身が症状に気付き、ブドウ糖などの補給をすることで対処することができますが、意識を失うなどの重度の低血糖になると、自分では何もできず、周囲の手助けが必要となります。

 

経口血糖降下薬やインスリン製剤を使用している場合は、患者さんだけでなく、ご家族の方にも低血糖の症状や対処方法を理解して頂き、低血糖の症状が現れた場合には、速やかに糖分(ブドウ糖)の補給を行うようにしましょう。
動悸、ふるえ、冷汗などの軽度の低血糖の症状に気が付いたら、ブドウ糖や砂糖、缶ジュースをすぐに摂りましょう。摂る量の目安としては、ブドウ糖を含む飲料水では150~200mL、砂糖なら10~20gです。α-グルコシダーゼ阻害薬を服用中の方は、必ずブドウ糖を摂って下さい。
意識を失うなどの重度の低血糖で、ブドウ糖やジュースが摂れない場合は、ブドウ糖や砂糖を口唇や歯肉の間にぬり付けてもらいます。または、ご家族の方からグルカゴンの注射をしてもらいます。ご家族の方には、グルカゴン注射の仕方を覚えて頂くと安心です。
症状が治まっても、低血糖の再発や遷延で意識障害が起こる可能性がありますので、主治医と連絡を取り、受診するようにして下さい。
また、外出先などで低血糖を起こすことがあるかもしれません。外出する際には、必ず甘いものやブドウ糖を携帯するようにしましょう。

無自覚性低血糖

低血糖を何度も起こしていると、血糖値が下がった時に通常あらわれる動悸、ふるえ、冷汗などの警告症状がだんだん現れにくくなります。自覚症状がなかなか現れず、重度の低血糖となり、突然、意識障害を起こすことがあります。これが「無自覚性低血糖」です。

夜間低血糖

夜間、寝ている間に起こる低血糖が「夜間低血糖」です。夜間低血糖は周りが気付きにくく、対処が遅れる可能性があります。
また、最近の研究では、軽い夜間低血糖でも、夜中に目が覚めてしまって十分な睡眠が取れない、寝不足で翌日の仕事や生活に影響が出るなど、患者さんの日常生活に支障があることがわかってきました。

 

ごく最近まで、糖尿病の治療目標は血糖を下げることを重要視した厳格な血糖コントロールが行われてきました。しかし、海外の研究報告などから、厳格な血糖コントロールにより、薬の使用量が増えて重い低血糖を起こす回数が増加すると、結果として、血管障害が起きやすくなり、予後もあまりよくないことがあるとわかってきました。
現在は、「低血糖を起こさずに適正な血糖コントロールをする」ことが、最も重要な治療目標と考えられています。重度の低血糖はもちろん、軽度の低血糖もできるだけ起こさないようにすべきという考え方が主流になり、「質の良い血糖コントロール」をめざすことが大切だと言われています。

 

これまで、低血糖のリスクを減らし、良好な血糖コントロールができるようにと、様々な経口血糖降下薬や注射薬が開発されてきました。インスリン製剤にも様々な種類の製剤があり、患者さんの生活スタイルに合った製剤を使用することで、低血糖を少なくすることが可能になってきました。
糖尿病治療薬は日々進化を続けています。さらに簡便で質のよい血糖コントロールを可能にする薬が今も研究・開発されており、その登場が期待されています。
少しでも低血糖などで不安なことがあれば、まずは主治医に相談して下さい。

 

低血糖を起こしてしまったら、その日の生活を振り返り、なぜ低血糖が起こったのか、原因を考えてみましょう。血糖値は運動量、食事の量や質と関連しています。運動量がいつもより多かったり、食事の量が少なかったり、時間が不規則だったりしてなかったでしょうか。ご自身の生活と血糖の動きの関係を、把握できるようになりましょう。
患者さんが毎日どのような生活を送っていらっしゃるか、残念ながら医師はすべてを把握できるわけではありません。糖尿病治療の主役は患者さんご自身です。患者さんこそが実は一番の主治医なのだと思います。医師を含めた医療スタッフは、患者さんの治療をよりよく進めるためのチームです。患者さん一人ひとりの生活に適した治療を、一緒に考え、進めていきますので、「質のよい血糖コントロール」を実現しましょう。

 

 

佐倉 宏(さくら ひろし)
東京女子医科大学 東医療センター教授

 

次回のテーマは「再生医療と糖尿病」です。

監修 内潟 安子 [ 創刊によせて ]
東京女子医科大学
東医療センター 病院長

編集協力
岩﨑 直子、尾形 真規子、北野 滋彦、中神 朋子、馬場園 哲也、廣瀬 晶、福嶋 はるみ、三浦 順之助、柳澤 慶香
(東京女子医科大学糖尿病センター)
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