糖尿病について徹底解説。血糖値・HbA1cから
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様々な病気に対して、再生医療の展開が注目されています。
画期的な技術とその応用について、現在、行われている臨床試験も含めて、東京女子医科大学 副学長・教授で先端生命医科学研究所 所長の岡野光夫先生にご解説頂きました。

 

組織・臓器を細胞から人工的に作り出し、それを利用する再生医療は、これまでに行われてきた薬剤を用いる治療とは異なり、根本的な治療が実現できる次世代型の医療として世界的に注目されています。
私たちの研究チームでは、再生組織を作製できる「細胞シート工学」を提案し、研究を系統的に行っています。細胞を培養する皿の表面に特殊加工や適切な温度管理を行うことにより、培養細胞を培養皿からはがす新手法を開発しました。通常、培養した細胞を培養皿からはがすにはトリプシン等の酵素を使いますが、酵素処理をすると細胞の膜などが壊れ、細胞の機能や構造を維持できなくなります。しかし、私たちの開発した新手法の温度応答性培養皿を使えば、細胞の機能や構造を損なうことなく、培養細胞を皿からはがすことが世界で初めて可能となったのです(図1)。培養細胞は、細胞と細胞の間の接着が維持されたまま、一枚のシートになって回収できます。私たちは、すべての組織でこのシート状(平面)の培養細胞から積層(立体)へ、そしてまた組織化する技術に取り組んでおり、これを「細胞シート工学」と呼んでいます。

現在、研究が進んでいる臓器として、角膜、心筋、食道、歯(歯根膜)、関節軟骨があげられます。実際に臨床研究を行うところまで来ています。医学と工学が連携し、難病の根本的な治療に向けた、細胞シート再生治療の研究開発が進んでいるのです。

角膜
重症の角膜上皮疾患に対する治療法は、これまで角膜移植に頼るしかありませんでした。2003年から大阪大学と共同で、患者さん本人の角膜上皮細胞シートを移植する臨床研究をスタートさせたところ、ほとんど視力のなかった患者さんが回復するまでの効果をあげています。この成果をもとに、大学発のベンチャー企業がフランスのリヨン国立病院と共同で治験を開始し、現在、ほぼ終了したところです。

心筋
重症心不全に対しては、脳死患者さんからの心臓移植が最終的な治療法ですが、ドナー不足が大きな課題となっています。大阪大学と共同で、拡張型心筋症患者さん本人の筋芽細胞シートを、患者さんの心臓に直接貼り付け治療してみました。すると数ヵ月後には補助人工心臓を外すまでに、患者さんの心機能の回復がみられるという素晴らしい結果を得ることに成功しています。

食道
食道や大腸の早期消化管がんにおいては、内視鏡的治療法は患者さんの身体的負担が少ない上、臓器の機能が温存できる治療法として、現在広く用いられています。しかし、食道がん内視鏡的治療後に人工潰(じんこうかい)瘢痕(はんこん)*が大きくなると、食道に潰瘍や炎症に伴う食道狭窄(きょうさく)**が起こり、食物の通過障害を引き起こすという問題があります。そこで、上皮食道がんの内視鏡的切除後に、患者さん本人の口腔粘膜細胞シートを貼り付けることで、狭窄(きょうさく)を防止すると同時に、治癒を促進させることにも成功しています。現在までに、東京女子医科大学では、10名の患者さんで再生治療を成功させており、このプロジェクトはスウェーデンのカロリンスカ大との共同研究に発展し、世界各国への普及に向けた活動が続けられています。

*:治療時の傷あと
**:管部分の内側が狭くなり、物が通過しにくくなる状態

歯(歯根膜)
歯周病については、2011年より東京女子医科大学が、厚生労働省「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」のもとで歯根膜の細胞シート治療の臨床研究をスタートさせ、現在も進行中です。

関節軟骨
東海大学で軟骨の細胞シート治療を開発し、2011年より臨床研究をスタートさせています。これは小さな関節軟骨の損傷を、細胞シートで再生治療ができる画期的な方法で、今後の更なる再生治療の成功のために大きな期待が寄せられています。

糖尿病への展開
糖尿病領域では、膵β細胞から細胞シートを作製し、これを皮下に移植し、糖尿病のモデルマウスの治療に成功しています。さらにヒトの膵ランゲルハンス氏島細胞シートをマウスに移植し、血糖値に対応してインスリンを放出する人工的な再生膵臓の開発を進めており、糖尿病治療にも新しい局面を作っています。糖尿病の再生治療の早期実現に向けた研究にも力を注いでいきたいと考えています(図2)。 今後、細胞シート工学を基盤技術とした再生医療を推進することで、難治性の病気の根本的な治療のみならず、患者さんの生活の質を向上させ、健康な社会の構築へとつなげていきたいと思っています。また、細胞シート工学は、世界初日本発の技術として、世界医療にも貢献するものと考えています。

 

岡野 光夫(おかの てるお)
東京女子医科大学 副学長・教授
先端生命医科学研究所(TWIns) 所長
1974年早稲田大学理工学部応用化学科卒業。1979年同大学大学院理工学研究科応用化学専攻博士課程修了。東京女子医科大学助手、講師、Utah大学助教授、東京女子医科大学助教授を経て、1994年より現職。1999年より医用工学研究施設施設長、2001年より先端生命医科学研究所所長となる。2005年より日本学術会議会員。Utah大学教授。工学博士。

 

次回のテーマは「食事療法を考える」です。

 

監修 内潟 安子 [ 創刊によせて ]
東京女子医科大学
糖尿病センター センター長

編集協力
岩﨑 直子、尾形 真規子、北野 滋彦、中神 朋子、馬場園 哲也、廣瀬 晶、福嶋 はるみ、三浦 順之助、柳澤 慶香
(東京女子医科大学糖尿病センター)
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