糖尿病について徹底解説。血糖値・HbA1cから
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歯周病は糖尿病の6番目の合併症と言われています。糖尿病患者さんの歯周病の特徴や、歯周病と糖尿病の関係について、くりはら歯科医院 院長 栗原幹直先生にお伺いします。

 

風邪やインフルエンザが、細菌やウイルスによる感染症であるということは、みなさんもよくご存じのことと思います。歯周病もまた、歯と歯肉の間にある浅い溝(歯肉溝)に、歯周病細菌が感染して発症する感染症なのです。歯周病には大別して、進行が歯肉に留まっている歯肉炎と、歯を支えている歯槽骨(しそうこつ)まで達した歯周炎があります(図1)。30歳以上の約8割の人に歯周病(歯肉炎、歯周炎)があり(※1)、生活習慣病もしくは国民病とさえ言われています。また、歯周病は歯を失う原因の第1位でもあります。
一方、歯周炎の中には、1000人に数人の割合で比較的若年で発症し、歯周組織(歯肉、セメント質、歯根膜、歯槽骨)が急速に破壊されるものがあり、侵襲性歯周炎(しんしゅうせいししゅうえん)と呼ばれています。若年発症の1型糖尿病のように侵襲性歯周炎は、生活習慣とは関係なく若年で発症します。そのため、若い人でも歯周病に注意する必要があります。
(※1)日本歯周病学会編 歯周病の診断と治療の指針2007 医歯薬出版:1, 2007

虫歯は、歯がしみる、痛みが出るなど症状があるため、すぐに歯科を受診することが多いことでしょう。一方、歯周病は進行してから初めて症状が出てくる病気です。歯茎から出血した、膿が出た、歯がぐらぐらする、歯の根が見えてきたなどに気付いて初めて、歯科医院を受診することが多いのが現状です。そのような状態になって受診すると、歯を抜かざるを得ないことも少なくありません。

 

糖尿病と歯周病は一見まったく異なる病気ですが、実は相互に関係することがわかってきました。糖尿病の方は、そうでない方と比べて、歯周病になりやすいことがわかっています。特に1型糖尿病の方では、前述の侵襲性歯周炎のように、若い方でも歯周病になりやすいと言われています。糖尿病のコントロールがよくない場合や、罹病期間が長い場合には、歯周病の進行が速く、早期に重症化しやすいと言われています。これには、①歯周病細菌が糖分を好むため、唾液中の糖によって増殖しやすいこと、②抵抗性(免疫力)の低下、③唾液量の低下、④血液の循環が悪いこと、さらに⑤歯肉の血管がもろくなり傷が治りにくいことなど、様々な理由が関係しています(図2)。

 

歯周病は歯周病細菌による感染症なので、慢性的で、軽微な、炎症が持続している、ことになります。そのため、歯周病細菌から毒素が産生され、歯周組織を破壊する一方で、この細菌を攻撃するために、体の中でも炎症性の物質が常に産生されていることになります。その結果、これらの歯周病細菌や炎症性物質が血液や唾液に混ざって全身をかけめぐることになります。この炎症性物質によりインスリン抵抗性が上がり、血糖コントロールの悪化を導くことがわかっています(図2)。
さらに、ある種の歯周病細菌が頸動脈や冠状動脈(かんじょうどうみゃく)に粥状硬化(じゅくじょうこうか)(血栓)の形成を促し、心筋梗塞や脳梗塞の発症のリスク因子となることもわかってきました。つまり、歯周病は大切な歯を失うばかりでなく、全身にも悪影響を及ぼし、生命をも奪いかねないとても怖い病気なのです。また、歯周病の進行で歯がぐらぐらしたり、歯を失ったりすると、食物繊維やミネラルなどの摂取が少なく、逆に摂り過ぎに注意が必要な炭水化物やコレステロールの摂取が多くなるため、栄養バランスが崩れる傾向もあります(※2)
2型糖尿病の方で歯周病の治療をすると、インスリン抵抗性が低下し、その結果HbA1cの改善や、さらに炎症の指標になる検査値(高感度CRP値)の低下も見られたという報告もあります。歯周病の治療は、大切な歯を残すことのみならず、糖尿病はもちろんのこと、全身の健康の改善と維持につながることになるのです。
(※2)平成16年国民健康・栄養調査

 

歯周病の治療は、早期発見、早期治療が重要です。炎症がまだ歯肉にとどまっている歯肉炎であれば、ほとんどの場合に正しい歯磨きや歯石除去で治ります。正しい歯の磨き方をぜひ歯科医にご相談下さい。
しかし、炎症が歯肉を通り越して歯槽骨や歯根膜までおよんでいる歯周炎であれば、歯周ポケット(歯と歯肉の間にできる溝)の深部まで徹底的に感染源を除去するなど、専門的な治療が必要となります。歯周病の進行の程度によっては外科的な処置をすることもあります。
さらに、歯周病の進行程度や全身状態により適応が限られますが、失われた歯周組織を再生する再生手術もできるようになりました。

 

歯周病は糖尿病の合併症の一つですから、糖尿病網膜症や糖尿病腎症など、他の合併症と同様に定期的に検診を受けることが大切です。現在自覚症状のない方でも、かかりつけの歯科医院で、歯周病の状態を診査・診断してもらって下さい。
もしこれから新しく歯科医院を受診される場合には、日本歯周病学会の歯周病専門医(※3)や、日本糖尿病協会の歯科医師登録医(※4)に受診することをお勧めします。それぞれのホームページから、住まいのお近くの専門医や登録歯科医師を調べることができます。
歯周病についての知識や治療方法、さらに糖尿病との相互の関連などは、まだまだ一般に浸透していないのが現状です。糖尿病があれば、歯周病予防も心がけて、症状がなくても年に3回以上、歯科検診を受けることが望ましいとされています。
(※3)日本歯周病学会 認定医・歯周病専門医名簿一覧
http://www.perio.jp/roster/
(※4)日本糖尿病協会 歯科医師登録医検索
http://www.nittokyo.or.jp/jadec_db/?search_type=1

 

家庭における歯周病の予防は、①毎食後、正しい歯磨きをし、定期的に歯科検診を受ける②血糖コントロールをよくする③たばこを控える④太らないことです。私も8歳の時に1型糖尿病と診断され、現在インスリンポンプを使って血糖コントロールを行っています。日々の診療のかたわら、患者さんや医療関係者の方々に歯周病と糖尿病の関係について少しでもご理解を深めていただけるよう奮闘しています。歯周病も糖尿病と同じように日頃の生活習慣で発症する場合がほとんどです。そのため、日頃の口腔ケアがとても大切になります。一生、自分の歯で食べられるためにも、血糖コントロールを良好に維持するのと同じように、歯周病を良好に維持することが大切です。そのことが、全身への健康維持につながるのです。

 

くりはら歯科医院 院長 栗原 幹直(くりはら みきなお)
徳島大学歯学部卒業後、岡山大学歯学部歯周病態学講座入局。2004年広島県三原市に「くりはら歯科医院」を開業。日本歯周病学会歯周病専門医、日本糖尿病協会歯科医師登録医、1型糖尿病患者専門受け入れ歯科医院。

 

 

次回のテーマは「糖尿病とかすみ目」です。

 

監修 内潟 安子 [ 創刊によせて ]
東京女子医科大学
糖尿病センター センター長

編集協力
岩﨑 直子、尾形 真規子、北野 滋彦、中神 朋子、馬場園 哲也、廣瀬 晶、福嶋 はるみ、三浦 順之助、柳澤 慶香
(東京女子医科大学糖尿病センター)
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