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平山 瑞穂さん 【後編】

「私の糖尿病生活」第一回目は、作家として活躍されている、緩徐進行1型糖尿病の平山 瑞穂さんをご紹介します。
平山さんは、『シュガーな俺』でご自身の糖尿病体験を紹介されております。「私の糖尿病生活」では、2回に分けまして平山さんに糖尿病の発症当時と現在の様子についてお話を伺っていきます。

1週間の生活を教えてください

 サラリーマンと兼業ですので、月~金の日中は会社勤めです。速効型というインスリンを使っていますので、食事の30分前に投与する必要があります。そこ で、朝起きるとまず血糖値を測って注射を済ませてしまいます。それから身づくろいをして、手早く朝食の準備をすると、ちょうど食事の時間になります。
勤務中の昼食はほぼ外食です。以前は食事療法に則った弁当を自分で作って持参していたのですが、作家デビュー後、あまりに忙しくなってしまったので省略するようになりました。さいわい内勤で、食事開始時間はかなり正確に予測できるので問題ありません。
まっすぐ帰る日の夜は、コンビニで買ってきたものに野菜中心の冷凍の惣菜を加えたり、気が向けば自炊したりしています。以前ほど熱心にカロリー計算はして いませんが、感覚が身についているので、そう外れたものにはなっていないと思います。ただし、飲みに行くときだけはほとんど自制していません。量を気にし ながら飲んでいても息抜きになりませんので。
残りの時間からわずかな睡眠時間を除いた分が、ほぼすべて執筆活動に充てられています。
 

現在、平山さんにとって糖尿病やインスリンはどのような存在ですか?

 今となっては、糖尿病は「自分の一部」であり、家族との縁は切っても切れないというのと同じ意味で、「腐れ縁の相棒」とでもいった存在になっていると思います。
僕は1型糖尿病なので、インスリンも似たような意味で「生涯の腐れ縁」的存在なのですが、むしろ公然とそれを使える立場にあることをありがたく思っていま す。だって、「打ちさえすれば血糖値が下がる」なら、それは魔法の薬ではないですか(笑)。たくさん食べたらそれだけたくさん打つ。それである意味、チャ ラになるのです。お医者さんはそういう使い方を決して認めないと思いますが、理屈から言えば間違っていないはずです。
もちろん、肝臓など別の臓器にかかる負担は帳消しにできませんし、へたな打ち方をすれば低血糖を起こす心配もあります。僕の場合、飲みが長丁場になるとき は、最初に打ってからおおむね三時間後に適量を「足し打ち」していますが、それはあくまで僕の体質や飲み方から割り出したパターンです。自分にとって効果 的で安全な「足し打ち」のパターンを見出だすには、一定の経験と分析力が必要でしょう。
でも僕はそれこそが、生涯インスリンに依存して生きていかねばならない1型患者にとっての「役得」だと考えています。
 

今だから話せる苦い経験があれば教えてください

 以前、「食事の30分前にインスリンを打つ」という点にこだわって、失敗したことがあります。会社帰りに1人で外食をしようと思って注射を済ませたので すが、「30分」がもったいないので、その間にひとつくらいなら用事を済ませられるのではないかと考えました。ちょうど浴衣が欲しいと思っていたので、デ パートでそれを買うことにしたのですが、無謀だったと思います。
浴衣を買うこと自体が初めての経験なので、一から説明をしてもらうよりほかにありません。予想よりはるかに時間がかかってしまい、支払いを済ませる頃には すでにインスリンが効きはじめていることを体感できるほどでした。なおも続く売り子さんの親切な説明を断ち切るようにして店を出たときには、視界が暗転し て正常な判断力を失っていました。
無我夢中でブドウ糖錠剤をかじりながら、レストランフロアを目指して闇雲に歩きまわったこと、かろうじて読めた巨大な「杵屋」の文字が天使に見えたこと、 読めないメニューの文字をあてずっぽうに指して出てきたうどんを、味も何もわからないまま喉に流し込んだことを覚えています。
それ以来、インスリンを打ってからの「時間の有効活用」は断念しています(笑)。
 

仕事と執筆活動の両立という忙しいなか、糖尿病のコントロールが難しい場面はありますか?
どのように乗り越えていますか?

 『シュガーな俺』は、僕自身の糖尿病体験をフィクション仕立てで赤裸々に綴ったものです。プライバシーを曝け出すようで抵抗もあったのですが、糖尿病が これだけ注目されている今、こういう本を書けばまちがいなく売れるだろうと編集者に背中を押され、それで印税がたくさん入るならそれも「役得」だと考えた のです。
それに、糖尿病という病気は、名前がポピュラーなわりに、実態については意外なほど知られていません。自分が罹患してみて初めてそれに気づき、本を書けば啓蒙活動にも一石を投じることができるのではないかという思いもありました。
でも結果として売れ行きはたいへん微々たるもので、正直、「カミングアウト損」だったなと思います(笑)。
そういう肩透かしの結果も含め、作家活動というのは非常にストレスの大きい仕事です。まして会社勤めと両立させるには、どうしても睡眠時間を削らねばなり ません。インスリンの効きが悪くなることもあります。しかしそこはマメにコントロール状態をモニターして注射の量を調整すれば済むことですし、何より日々 充実は感じているので、それを報償と考えて日々どうにか折り合いをつけています。
 

糖尿病と毎日向き合っている中でストレスがたまったり、嫌になることはありませんか?

 僕は以前から、高血糖状態であることと、放射線への被曝は似ていると思っています。ごく稀に微弱な放射線を浴びたとしても、長い人生の中ではゼロと見な していい程度のことでしょう。しかし恒常的に放射線に晒される生活を長期間にわたって送れば、たとえ一回ごとの被曝量はわずかでも、体は確実に蝕まれてい きます。
高血糖状態もそれと同じだと思います。僕は糖尿病患者にしてはかなり良好なコントロール状態を保っていますが、それでも健常者より血糖値が高めの状態に常 に晒されているわけです。いつかはその影響が合併症などの形で表に現れるのではないか、という恐怖からは、決して自由になれません。
たとえば僕は、休日など朝起きなくていい日であっても、必ず一度起きて、微量のインスリンを打ちます。食事を摂らずにいても、それまでに食べた分がゆっく りと消化されていき、放っておけば高血糖になってしまうからです。そんな心配をせずに好きなだけ眠りを貪れればどんなにいいか、と思うことがあります。
そうした不自由さにときにはうんざりさせられますが、そうでなくても人生にいやなことはつきものだと考えれば、たいしたことではありません。
 

今糖尿病について悩んでいる方へメッセージ

 今、糖尿病患者であるご自分について、どんなお気持ちをお持ちでしょうか。2型糖尿病の方は、あるいはそれまでの食生活を振り返って、もっと栄養 バランスに気を遣っておくのだったと後悔されているかもしれません。1型糖尿病の方、特に幼少時など若い頃に発症された方は、人から奇異の目で見られたり いわれなき差別を受けたりとつらい思いもたくさんしてこられたことでしょう。
しかしどうあがいても、糖尿病とは今後死ぬまでつきあっていかざるをえないのです。ここはひとつ視点を切り替えて、それを自分の個性のようなものだと考えてみてはいかがでしょうか。
スポーツ万能だけれど、そのかわりあまり勉強は得意ではないという人がいます。ピアノは上手に弾けるのだけれど、とても音痴で、だれかと一緒にカラオケに 行くのが苦痛だという人もいます。努力しないと血糖コントロールが悪化してしまうこともそれと同じで、人と比べて不得手な分野がたまたまそこになってし まったのだ、と考えれば、だいぶ気が楽になるのではないでしょうか。
どうせ長いつきあいになるのですから、それくらいの気構えで臨まないと神経がもちません。あまり深刻に考えず、楽しめるところは存分に楽しみながら、残りの人生をまっとうしましょう。

※本インタビューは2010年10月に行いました。
 

平山 瑞穂さん プロフィール

1968(昭和43)年、東京生れ。立教大学社会学部卒業。
2004(平成16)年、『ラス・マンチャス通信』で「日本ファンタジーノベル大賞」の大賞を受賞し、デビュー。34才の時に糖尿病を宣告され、その体験に基づいて書いた小説が『シュガーな俺』。
著作はその他に、『忘れないと誓ったぼくがいた』『冥王星パーティ』『プロトコル』『桃の向こう』『全世界のデボラ』『マザー』など。

『シュガーな俺』

異常な喉の渇き、原因不明の激ヤセ、全身の倦怠感。著者自身が糖尿病治療のため、入院した経験にもとづいて執筆した世界初の糖尿病小説。

[単行本] [文庫]
出版社: 世界文化社 出版社: 新潮社
価格: ¥ 1,470 価格: ¥ 540

 

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