糖尿病は、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が慢性的に高くなる病気です。膵臓のβ細胞で作られる「インスリン」は、血液中のブドウ糖を細胞内に取り込み、エネルギー源として活用するために必要な物質です。しかし、糖尿病のある方では、このインスリンが十分に作られないか、またはうまく機能しないため、ブドウ糖が効率的に細胞に取り込まれず、血糖値が高くなります。そして、血糖値が高い状態が続くと、さまざまな合併症を引き起こします。ただし、健康的な食事や運動、そして必要に応じて糖尿病治療薬を使用することで、血糖値を適切な範囲に保ち、合併症を予防することが可能です。
糖尿病のイナーシャ問題
「クリニカル・イナーシャ」とは何じゃ?
信長 なんじゃと、糖尿病が悪化しておるのに、「今のままでよい」などと考えている者がおるとな!?
医師 そうなのです。2型糖尿病の治療では、健康的な食事や運動が基本となりますが、治療目標が達成できない場合には、糖尿病治療薬の開始や追加、変更が必要になります。しかし、さまざまな理由で適切な対応がなされず、治療目標が未達成のまま長期間経過することが少なくありません。この現象は「クリニカル・イナーシャ」と呼ばれています。海外の報告によると、糖尿病治療薬を使用している方のうち、治療目標が達成されていないにもかかわらず、半年以上も適切な対応がなされていない方が6割以上にのぼるとのことです。
信長 ふむ、クリニカル・イナーシャとは、難儀な問題よのう。
治療目標※
が未達でも半年以内に
治療強化が行われなかった割合
※HbA1c7.0%以上
Kevin MP et al. Diabetes Care
2018;41(7):e113-4より改変
Adapted with permission from Diabetes Care
Clinical Inertia in Type 2 Diabetes Management: Evidence From a Large,
Real-World Data Set, Diabetes Care 2018;41:e113–e114 |
https://doi.org/10.2337/dc18-0116. Copyright 2024 by the American
Diabetes Association.
糖尿病は気付かぬうちに悪化するのじゃ
信長 しかし、体調に変化がなければ、生活も治療も変えなくてもよいのではないか?
医師 そうとも言っていられません。血糖値を適切な範囲に維持するためには、膵臓のβ細胞で作られる「インスリン」という物質が非常に重要です。β細胞のインスリンをつくる力(β細胞機能)は、血糖値が高い状態が続くと、徐々に低下するとされています。そのため、治療目標が達成されない状況が長引くと、血糖値を適切な範囲に維持することがますます困難になってしまいます。
信長 気付かぬうちに窮地に陥れられておるとは・・・まるで忍びの仕業じゃな。
2型糖尿病の自然歴(イメージ図)
いと恐ろしきは合併症じゃ
医師 血糖値が高い状態が続くと、血管に傷が付き、さまざまな合併症を生じてしまいます。
信長 なにっ、合併症とな? 一体どんな病気が引き起こされるのじゃ?
医師 細い血管が傷つくことで生じる神経障害、網膜症、腎症は、糖尿病の三大合併症と呼ばれています。
これらが重症化すると、足の切断や失明、さらには人工透析の導入が必要となり、生活の質を大きく損なうことがあります。また、太い血管が傷つくと、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる病気を引き起こすこともあります。しかし、健康的な食事や運動、必要に応じた糖尿病治療薬の使用により、血糖値を適切な範囲に維持することで、これらの合併症を予防することが可能です。
信長 ぐぬぬ・・・何とか守りを固めるのじゃ!
糖尿病の三大合併症
すぐ主治医に相談じゃ!
医師 治療目標が達成できない場合には、食事や運動を含めた生活習慣を振り返るとともに、使用する糖尿病治療薬を見直すことも推奨されています。
信長 しかし、日々の精進が必要になるとは、難儀よのう・・・
医師 治療薬の見直しといっても、複雑になるばかりではありません。最近では、個々人の糖尿病の状態やライフスタイルに合わせて、さまざまな飲み薬や注射薬が使用できるようになっています。例えば、1日1回必要であった注射が週1回で済む注射薬なども登場し、ライフスタイルに合わせて使い分けができるようになっています。
信長 なんと耳寄りな話!
医師 主治医としっかり相談して、自分に合った糖尿病治療薬を話し合うことが大切です。
信長 皆の者、勝ちどきじゃ!今すぐ主治医に相談するのじゃっ!
糖尿病治療薬一覧
【コラム】 膵臓と糖尿病
インスリンの役割
膵臓のβ細胞で作られる「インスリン」の働きにより、ブドウ糖は効率的に細胞に取り込まれ、エネルギー源として活用されます。
監修:京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学 教授 矢部 大介 先生
糖尿病の三問題
こんなページを見ています
JP24DI00040