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糖尿病とは?

監修:永寿総合病院
   糖尿病臨床研究センター センター長 渥美義仁 先生


「糖尿病」と聞くと、どんな印象を受けますか? 「甘いものを食べすぎたら糖尿病になる」「一生味気ない食事しか食べられない」「糖尿病になったら、普通の生活は送れなくなる」・・そんな誤った印象があるかもしれません。

 

糖尿病は、一度発症すると完全に治るということはありません。しかし、自分の状態に合わせて治療の3本柱である「食事療法」・「運動療法」・「薬物療法」を行えば、健康なひととなんら変わらない生活を送ることができます。正しい知識をもち、上手に糖尿病と付き合っていくことで、普通のひととかわらない生活を送ることができるのです。
ここでは、糖尿病を理解して、うまくつきあっていくための必要な知識を学んでいきましょう。

糖尿病には、なぜなるの?


私たちが生きていくための大切なエネルギー源として血液中にブドウ糖が存在します。このブドウ糖がなくては生きていけませんが、多すぎてもよくありません。

糖尿病とは、この血液中のブドウ糖 (血糖) が多くなる病気です。この血液中のブドウ糖の割合を血糖値と呼びます。
 

なぜ、血糖値が高くなってしまうのでしょうか?
健康なひとは、食事をすると一時的に血液中のブドウ糖が増えますが、すい臓から出ている「インスリン」というホルモンによってブドウ糖を体内に取り込み、体内に蓄え、エネルギー源として使うことができる状態にしてくれます。このインスリンの働きによって、血糖値は一定の範囲内におさまっています。
ところが糖尿病のある方は、このインスリンが少なくなったり、効きが悪くなったりして、ブドウ糖をうまく血液中から体内に取り込めなくなってしまいます。そして血糖値が高い状態 (高血糖) が長く続くと、さまざまな病気 (糖尿病合併症) を引き起こします。
 

では、なぜ糖尿病になるのでしょうか?
糖尿病にはいくつかの種類があり、その種類によって糖尿病になる背景も違います。
一般的に知られているものとして、「1型糖尿病」と「2型糖尿病」があります。日本では、95%以上の糖尿病のある方が2型糖尿病です。
2型糖尿病は、いくつかの遺伝因子と“食べすぎ”“運動不足”“ストレス”といった生活習慣が加わって、インスリンの働きを悪くしてしまい発症します。

糖尿病かな?と思ったら


初期の糖尿病は自覚症状がほとんどありません。そのため、健康診断で「糖尿病」と言われても、ピンとこなくて放置するひともいるでしょう。しかし、自覚症状が出たときには、すでに合併症が進んでいることも少なくありません。放置すればするほど、治療が難しくなる病気です。

下記の代表的な糖尿病の症状に当てはまるものがあれば、早めに近隣のお医者さんへ一度ご相談してみてください。病院検索サイトはこちら

<糖尿病の代表的な症状>

  • のどがすぐ乾き、水をよく飲む
  • おしっこの回数が多く、量が多い
  • なんだか疲れやすい
  • お腹がすいてよく食べるのに、体重が減っていく
  • 足がつったり、しびれたりする
  • 目がかすんだり、黒い点が見えたりする
  • ちょっとした傷が治りにくい
  • 男性の場合、性機能の問題が生じる (ED)


糖尿病になるとどうなるの?

 
血管は、心臓から送られる血液を全身に循環させる重要な器官です。糖尿病になると、血管の中は血糖値が高い状態が続きます。血糖値が高い状態は、血管を傷つけたり、血液をドロドロにしたり、さまざまな負担を血管に与えます。糖尿病は、長い時間をかけて血管をボロボロにしていく病気とも言えます。

特に、細い血管 (毛細血管) は、もともと血管自体がもろく、血糖値が高い状態の影響が早いうちから出てしまいます。毛細血管が集中する網膜、腎臓、手足に現れる障害の「糖尿病網膜症」「糖尿病性腎症」「糖尿病性神経障害」は糖尿病の三大合併症 (細小血管障害) と言われ糖尿病で起こる確率が高い合併症です。

血糖値が高い状態は、毛細血管だけではなく太い血管にも影響を与えます。大血管障害と呼ばれる、脳梗塞・心筋梗塞など直接命にかかわる病気を引き起こすこともあります。

 
これらの合併症は、糖尿病の可能性がある、あるいは糖尿病と診断されたときから進行し、5~10年くらいで出現すると考えられています。血糖値が高い状態をほうっておくと、ゆくゆくは失明や透析や手足の壊疽 (えそ) を引き起こすとも言えます。反対に今の生活習慣を改善し、正しい治療をすれば合併症を防ぎ、普通の人と変わらない生活が送れます。

<糖尿病の三大合併症>


●糖尿病網膜症

糖尿病の初期から自覚症状なく進行します。網膜の毛細血管を傷つけ、出血や網膜剥離※1を起こし、最終的には失明にいたります。糖尿病網膜症は、日本人の失明原因の第2位です。
糖尿病網膜症になっても、早期発見であればすぐに失明してしまうわけではありません。失明してしまう方の多くが、定期的な検査をしていなかったり、違和感を覚えていたのに受診をしていなかったりといった背景があります。
糖尿病と診断されたら、自覚症状がなくても定期的に眼科での「眼底検査」を受け、継続的に良好な血糖管理を維持していくことが大切です。しかし、短期間で行われた急激な血糖管理の改善も、糖尿病網膜症を引き起こす可能性があります。血糖管理の目標については、かかりつけ医に相談しましょう。

※1:  目はカメラでいうレンズの役割を果たす角膜と水晶体、フィルムの役割を果たす網膜という部分があります。網膜にはたくさんの神経が集まり、角膜と水晶体で捉えた映像を脳に送っています。網膜剥離とは、網膜がはがれ視力の低下や視野が狭くなってしまう病気です。


●糖尿病性腎症

腎臓には糸球体 (しきゅうたい) という毛細血管の塊 (かたまり) があり、ここで血液をきれい (ろ過) にします。血糖値が高い状態では、この糸球体が傷つきやすくなります。血糖値が高い状態をほうっておくことで、徐々に腎臓が傷つけられ、尿と一緒にたんぱく質も出てきます。しだいに腎臓の働きも弱くなり、最終的には腎不全になり、人工透析が必要な状態にいたってしまいます。現在、人工透析の原因は糖尿病性腎症が最も多く、現在も増え続けています。
糖尿病性腎症は、比較的進行しても自覚症状の少ない病気です。また、腎症が進行してしまうと、多くの生活制限が出てきます。
糖尿病性腎症は、一般的にゆっくり時間をかけて進行します。糖尿病性腎症の発症・進行を予防するためには、継続的な血糖管理と定期的な尿検査を行っていくことが大切です。


●糖尿病性神経障害

糖尿病は、手足の感覚などをつかさどる末梢神経 (まっしょうしんけい) にダメージを与えます。
具体的な症状としては、手足がしびれたり、悪化すると痛みの感覚が鈍くなったりします。例えば、ケガをしても痛みを感じず、気がつくのが遅れ、感染症を引き起こすことがあります。特に足は症状が悪化すると壊疽 (えそ) になりやすく、場合によっては足の切断をよぎなくされます。初期の段階から自覚症状があるので、早めにかかりつけ医への相談をしましょう。

壊疽 壊疽 (えそ) の例


糖尿病にはどんな種類があるの?


糖尿病にはいくつかの種類があります。そのわけ方は、糖尿病になる原因や状態などでいくつもの方法があります。ここでは、代表的なわけ方と一般的に知られている糖尿病を紹介します。

糖尿病は、糖尿病になる原因別に大きく4つの種類にわけることができます。
 

糖尿病と糖代謝異常※1の成因分類※2

Ⅰ.1型  膵β細胞の破壊、通常は絶対的インスリン欠乏に至る

     A自己免疫性
     B特発性
Ⅱ.2型  インスリン分泌低下を主体とするものと、インスリン抵抗性が主体で、それにインスリンの相対的不足を伴うものなどがある

Ⅲ.その他の特定の機序、疾患によるもの

     A遺伝因子として遺伝子異常が固定されたもの

     ①膵β細胞機能にかかわる遺伝子異常
     ②インスリン作用の伝達機構にかかわる遺伝子異常

     B他の疾患、条件に伴うもの

     ①膵外分泌疾患
     ②内分泌疾患
     ③肝疾患
     ④薬剤や化学物質によるもの
     ⑤感染症
     ⑥免疫機序によるまれな病態
     ⑦その他の遺伝的症候群で糖尿病を伴うことの多いもの

Ⅳ.妊娠糖尿病

※1:一部には、糖尿病特有の合併症をきたすかどうかが確認されていないものも含まれる。
※2:現時点ではいずれにも分類できないものは、分類不能とする。
〔日本糖尿病学会糖尿病診断基準に関する調査検討委員会:糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告(国際標準化対応版). 糖尿病55:490, 2012〕
〔日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療ガイド2020-2021, P18, 文光堂, 2020〕

 


●1型糖尿病とはどのような病気?

1型糖尿病には、自己免疫反応 (じこめんえきはんのう) の異常やウイルス感染により、すい臓のβ細胞 (べーたさいぼう) を自分で攻撃してしまい、インスリンを出す機能を壊してしまうタイプ (自己免疫性) と原因不明のタイプ特発性 (とくはつせい) の2つがあります。

いずれのタイプでも患者さんのすい臓は、自分でインスリンをだす力がなくなってしまいます。そのため、治療にはインスリン療法が必要です。
特徴としては、10~20代の若い人に突然発病する場合が多いですが、高齢者でも1型糖尿病として糖尿病を発症することがあります。
日本では、2型糖尿病に比べ非常に発症率が低いのが特徴で、1年間に10万人の中で約1.5〜2.5人ほど、1型糖尿病を発症するひとが存在すると言われています。※1最も高い国はフィンランドで、1年間に10万人の中で約40人ほど、1型糖尿病を発症するひとが存在すると報告されています。※2
最近では、遺伝子のなかである特徴をもつ遺伝子と1型糖尿病との関連が認められており、1型糖尿病の発症メカニズムの解明が期待されています。

 

●緩徐進行1型糖尿病 (かんじょしんこういちがたとうにょうびょう) とはどのような病気?

糖尿病を発症してすぐは食事療法と運動療法で血糖管理ができ、徐々に1型糖尿病の状態になっていくタイプがあります。このタイプの糖尿病は、緩徐進行1型糖尿病 (SPIDDM) と呼ばれています。一見、2型糖尿病のような状態から始まるため、間違って2型糖尿病と診断されることがあります。緩徐進行1型糖尿病のある方は、すい臓のインスリンをだす状態によってインスリン療法をスタートします。

 

●劇症1型糖尿病 (げきしょういちがたとうにょうびょう) とはどのような病気?

最初に糖尿病症状が確認されてから (血糖値が高い状態になってから) 、数日で状態が急激に悪化するタイプの患者さんがいます。このタイプの糖尿病は、劇症1型糖尿病と呼ばれています。

 劇症1型糖尿病のある方の特徴
・発症する90%以上が20歳以上である
・約70%の患者さんで直前に風邪 (発熱) の症状がある
・妊娠をして発症した1型糖尿病のほとんどは劇症1型糖尿病
・すい臓の自己免疫抗体はみられない

 


●2型糖尿病とはどのような病気?

日本の糖尿病のある方の約95%は、2型糖尿病です。
糖尿病になる要因には、遺伝的要因と環境的要因があります。遺伝的要因とは、両親や親戚に糖尿病をもっているひとがいると普通のひとより糖尿病を発症する可能性が高いタイプであるということです。
環境的要因とは、“食べすぎ”“運動不足”“ストレス”といった生活習慣のことを言います。
これらの要因が、複数組み合わさり糖尿病になると考えられています。このように2型糖尿病の場合、生活習慣も重要な要素であることから、「生活習慣病」と呼ばれています。

治療には、食事療法運動療法を基本としますが、それでも改善できない場合はさらに薬物療法を追加して行います。
2型糖尿病でも、すい臓のインスリンを出す能力が非常に低いひとや、長期間血糖値が高い状態をほうっておいたひと、さらには糖尿病の期間が長いひとでは、インスリン療法が必要になってきます。「糖尿病が悪化した」からインスリン療法が必要なのではなく、2型糖尿病の状態はさまざまであり、患者さん一人ひとりの状態によってインスリン療法が必要になると考えましょう。

糖尿病の成因による分類と特徴

糖尿病の分類 1型 2型
発症機構 主に自己免疫を基礎にした膵β細胞破壊.HLAなどの遺伝因子に何らかの誘因・環境因子が加わって起こる.他の自己免疫疾患 (甲状腺疾患など) の合併が少なくない インスリン分泌の低下やインスリン抵抗性をきたす複数の遺伝因子に過食 (とくに高脂肪食) 、運動不足などの環境因子が加わってインスリン作用不足を生じて発症する
家族歴 家系内の糖尿病は2型の場合より少ない 家系内血縁者にしばしば糖尿病がある
発症年齢 小児~思春期に多い.中高年でも認められる 40歳以上に多い.若年発症も増加している.
肥満度 肥満とは関係がない 肥満または肥満の既住が多い
自己抗体 GAD抗体、IAA、ICA、IA-2抗体、ZnT8抗体などの陽性率が高い 陰性

〔日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療ガイド2020-2021, P19, 文光堂, 2020〕

HLA:human leukocyte antigen
GAD:glutamic acid decarboxylase
IAA:insulin autoantibody
ICA:islet cell antibody
IA-2:insulinoma-associated antigen-2
ZnT8:zinc transporter 8

●妊娠すると糖尿病になることがあるって本当?

妊娠中に初めて確認された、もしくは発症した糖尿病にいたっていない血糖が通常よりも高い状態を妊娠糖尿病と呼びます。
血糖が通常より高い状態とは75gOGTTにおいて下記の基準を1つ以上満たしている状態を言います。

 ・空腹時血糖値    92mg/dL以上
 ・食後1時間血糖値 180mg/dL以上
 ・食後2時間血糖値 153mg/dL以上
 (※臨床診断で糖尿病と診断された場合は対象外とされます)

妊娠すると、赤ちゃんに十分な栄養を与えようとして血糖値が高くなったり、胎盤からインスリンを効きにくくするホルモンが分泌されます。そのため、妊娠中に初めて発見された糖尿病、あるいは糖尿病にはいたっていない糖代謝異常 (血糖値がやや高め) のことを妊娠糖尿病といいます。
赤ちゃんに影響する可能性があるため、血糖管理をきちんと行うことが大切です。
もともと糖尿病をもっている女性が妊娠したときには、糖尿病合併妊娠と呼びます。

●小児糖尿病とはどんな病気?

子供が発症する糖尿病のことをいいます。多くは1型糖尿病でしたが、最近では、肥満児が増え2型糖尿病のある子どもも増えつつあります。
 

●原因別分類の「その他の特定の機序、疾患によるもの」にはどのようなものがあるの?

がん、すい臓の病気など、他の病気が原因で発症する糖尿病があります。

 

参考資料

※1
Kida K, et al: Incidence of type 1 diabetes mellitus in children aged 0-14 in Japan, 1986-1990, including an analysis for seasonality of onset and month of birth: JDS study. Diabet Med 17:59-63,(2000)

※2
The DIAMOND Project Group: Incidence and trends of childhood Type 1 diabetes worldwide 1990-1999. Diabet Med 23: 857-866,(2006)

糖尿病の症状

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