患者:最近、夕方になると、足がむくみます。足の甲を指で押さえると指のあとがつくのです。朝、起きた時も、顔がむくんでいると家族から言われます。飲む水の量は控えているのですが。
医師:尿の泡立ちが強いことはありませんか?尿にタンパクがおりていることもありますよ。血圧も少し高いようですね。まずは、尿検査と血液検査をしてみましょう。
腎臓は、体の水分 (体液) の調整に重要な役目を担っています。高血糖状態が長期間継続すると、腎臓の小さな組織である糸球体
(細小血管の集合体で、血液の老廃物をろ過して尿をつくります)
がダメージを受け、糖尿病の三大合併症の1つである「糖尿病性腎症」を発症します。腎臓の働きは悪化しても、「沈黙の臓器」である腎臓は末期的な状態になるまで訴えてこないので注意が必要です。
患者:最近、夕方になると、足がむくみます。足の甲を指で押さえると指のあとがつくのです。朝、起きた時も、顔がむくんでいると家族から言われます。飲む水の量は控えているのですが。
医師:尿の泡立ちが強いことはありませんか?尿にタンパクがおりていることもありますよ。血圧も少し高いようですね。まずは、尿検査と血液検査をしてみましょう。
高血糖状態が持続すると、腎臓に流れ込んだ血液をろ過して尿をつくる糸球体 (図1) の構造が変化して、腎臓の機能が低下し、糖尿病性腎症を発症します。糖尿病性腎症では図2左(正常な糸球体の構造)から右 (糖尿病により変化したの糸球体の構造) のように糸球体内部のメサンギウム領域 (メサンギウム基質を含む範囲) が拡大したり、糸球体基底膜が厚くなるなどの変化が起こり、糸球体の毛細血管からタンパク質 (アルブミン) が尿中にもれて排泄されるようになります。さらに、進行すると糸球体が硬化して血中の毒素 (尿毒素) のろ過機能が悪化します。
図1 腎臓の尿を作る小さな組織のかなめ「糸球体」
図2 糖尿病によって腎臓の糸球体が硬化する
糖尿病性腎症を発症した場合に進行を防ぐためには、早期診断が重要です。自覚症状がない頃から定期的に尿検査を受けることで、尿中に排泄されるタンパク質 (アルブミン) がごく微量にとどまっている初期の「微量アルブミン尿」の段階で、腎症を診断することができます。また、腎症の診断前から高血糖・高血圧をしっかりと治療しておくことも大切です。
腎症の病期 (段階)
は、腎臓の機能に障害がまったくない第1期から、腎症が進行し、透析が必要になる第5期までに分かれています1)。病期の診断は、尿中にどれくらいの量のタンパク質
(アルブミン) が排泄されるかと、腎臓の機能を表す検査値 (糸球体ろ過量:GFR)
がどれくらい低下しているかという2つの指標を組み合わせて行います (表1) 。
腎症と診断された場合には、進行を防ぐための治療が必要です。まず血糖管理をよくすること、高血圧、脂質異常症をお持ちの方は、高血圧や脂質異常症の治療をすること、肥満の場合は減量すること、煙草を吸っている方は禁煙することにより、腎臓の機能を改善して、尿中に排泄されるタンパク質 (アルブミン) の量を減らすことができます。
腎症が進行して腎臓の機能がさらに低下すると、タンパク質について食事制限が必要になります。日本腎臓学会の食事療法基準2)では、例えば、慢性腎臓病の病期G3a (GFRの検査値が45~59) の患者さんのタンパク質摂取量は0.8~1.0g/kg標準体重/日ですが (表2) 、病期G3b (GFRの検査値が30~44) 以降に進行すると0.6~0.8g/kg標準体重/日となり、より厳しくなります。
食事のメニューを選ぶ時には、食品に含まれるタンパク質の量 (図3) に気を付けましょう。
病期G3aの場合、タンパク質摂取量は0.8~1.0g/kg標準体重/日
身長 | 150cm | 160cm | 170cm |
標準体重 [身長 (m) ×身長 (m) ×22] | 49.5kg | 56.3kg | 63.6kg |
1日あたりのタンパク質の摂取量 | 39.6~49.5g | 45.0~56.3g | 50.9~63.6g |
日本腎臓学会編:慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版, P.1-13, 東京医学社, 2014より作成
ゆでたまご
100gあたり12.9g
ごはん
100gあたり2.5g
生姜焼き
100gあたり26.7g
日本食品標準成分表2015年版 (七訂) より作成
糖尿病のある方の中には、尿中に排泄されるタンパク質 (アルブミン) の増加がないために糖尿病性腎症とは診断されていないものの、糖尿病が原因で腎臓の機能が低下している糖尿病性腎臓病 (DKD) の方がいます。いずれにしても、腎臓の機能の低下を防ぐために一番重要なのは高血糖状態を改善することです。しっかりと治療して、良い血糖管理を維持していきましょう。
1) 日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療ガイド2020-2021, P84, 文光堂, 2020
2) 日本腎臓学会 編:慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版, P.1-13, 東京医学社, 2014
公益社団法人日本糖尿病協会 編:糖尿病連携手帳 第4版, 2020
津田昌宏、繪本正憲:糖尿病ケア 15(6):507-510, 2018
日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療の手びき2020(改訂第58版)、南江堂、2020
日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療ガイド2022-2023 文光堂:85-89, 2022
文部科学省 食品成分データベース
https://fooddb.mext.go.jp/ (2022年7月現在)
JP23CD00115