No.6
糖尿病網膜症は軽症のうちは自覚症状が少ないので自分では気付きづらく、重症になって自覚症状が生じてからでは、治療を行っても元通りにもどらない可能性があります。見え方を大きく悪化させると日常生活に困るだけではなく、自力での通院やインスリンの自己注射が困難になったりすることで糖尿病治療全体に悪影響を及ぼす可能性があるので、眼科定期受診による早期発見、早期治療が望まれます。
悪くなってからは元通りにならない可能性が高い
眼をカメラに例えると、網膜は光を捉えるフィルムに該当する神経系の組織です。神経系の組織は、皮膚などのように自然に再生して元に戻る性質が少なく、網膜症がある程度以上悪化してしまった後では、いくら眼科的な治療を行っても、血糖を良好に保っても、障害が残る性質があります。例えば脳梗塞の後に脳の障害と麻痺が残ることがあるのと似ています。
悪くなってからでないと自分では気付くことが難しい
網膜はものを細かく見るための視力を担当する中心部(黄斑部)と、見え方の広がりを担当する周辺部に分けて考えることができます。黄斑浮腫の早期合併例を除けば糖尿病網膜症は網膜周辺部から障害されることが多いので、網膜症がかなり悪化して中心部に波及してからやっと視力低下などの自覚症状を生じることが少なくありません。逆に自覚症状が出る頃には網膜が不可逆な障害を起こしている可能性があります。
自覚症状がなくても定期受診
そのためにご自分では良く見えていても眼科を定期的に受診していただき、眼科医が網膜症を発見・評価する必要があります。眼科受診は途中で中断してしまうと見づらくなるまで再受診しないことになりがちです。血糖が高ければ高いほど、糖尿病になってからの期間が長ければ長いほど、網膜症が発症したり悪化しやすいことが分かっています。従って、かかりつけの眼科医と相談の上、網膜の状態や血糖管理の状態に応じて、次回の眼科受診予定を決めるのが理想的です。
佐伯 忠賜朗
東京女子医科大学 糖尿病センター 眼科
監修 [ごあいさつ]
東京女子医科大学内科学講座糖尿病・代謝内科学
教授・基幹分野長
馬場園哲也
編集協力
大屋純子、小林浩子、中神朋子、花井豪、三浦順之助
アイウエオ順
JP23DI00227