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学びの窓

糖尿病とデジタル医療

No.12

新型コロナ感染症の流行に伴い、情報通信機器を利用したデジタル医療の重要性が注目されています。糖尿病の診断や治療、管理におけるデジタル医療の活用ついて、東京女子医科大学 糖尿病・代謝内科 中神 朋子先生にご解説いただきます。

医療分野におけるデジタル技術の活用

近年の情報通信技術の発展はめざましく、医療・介護・健康分野でも、総務省、デジタル庁、厚生労働省が一丸となって、デジタル技術の活用を進めています。その理由として、超高齢化社会に突入し、患者さんが住み慣れた地域で、切れ目なく質の高い医療や介護を受けるためには、地域および全国レベルでの医療連携ネットワークが必要だからです。
また、新型コロナ感染症の流行により受診控えが増える中、必要な時に必要な医療を受けるためには、情報通信技術を利用した医療の整備が急務となりました。情報通信技術を利用した様々な取り組みを、糖尿病を中心に紹介します。

※総務省:ICT 利活用の促進   医療・介護・健康分野のネットワーク化推進
     https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/iryou_kaigo_kenkou.html

糖尿病におけるデジタル医療

糖尿病の管理には、主にHbA1c、血糖値、体重、血圧などのデータと、食事量や運動量、服薬状況などの生活状況の把握が必要です。これらのデータの中には糖尿病のある方が家庭で測定できるものも多く、記録したデータを医療機関に送り、医師がそのデータを参考にして、治療方針の決定や変更が可能な場合もあります。もちろん、採血しなくては測定できないHbA1cや腎臓や眼の定期的な検査など、医療機関を受診しなくてはできない検査もありますが、糖尿病はデジタル医療との親和性が高い疾患のひとつと考えられます。今後もデジタル医療の様々な活用が期待されます。

糖尿病とオンライン診療

オンライン診療は、医師と糖尿病のある方が、インターネットで結ばれた画面や電話で会話をしながら診察を受けるものです。パソコンやスマートフォンの画面越しでも、症状の安定している方や定期的に同じ病院に通院している方などは、対面と変わらない診察ができると考えられるようになりました。一方、初診の場合や病状に変化がある場合、定期的な合併症の検査などでは、今まで通り医療機関に出向く必要があります。

オンライン診療を実施するには、かかりつけの医療機関がオンライン診療に対応しているかどうか、また、主治医がオンライン診療でも診療可能と判断しているかどうか、そして糖尿病のある方やご家族がパソコンやスマートフォンの操作ができること、ご自宅などがオンライン診療の受ける通信環境にあることなどを確認する必要があります。

新型コロナ感染者数の増加、変異株の出現や緊急事態宣言などにより、今なお感染を避けるために受診控えをする方が少なくありません。糖尿病は治療を中断すると、高血糖が持続して重症化したり、糖尿病合併症などを発症するリスクが高まるため、適切な治療を続けることが大切です。

糖尿病の管理に活用できる情報通信

最近よく耳にするようになったIoT(アイ・オー・ティ)は、物と物とを通信で繋ぐ技術ですが、糖尿病の管理にも活用可能な技術があります。ご自宅で測定する血糖値や血圧、体重、活動量、食事などのデータを、パソコンやスマートフォンにダウンロードしたアプリケーションで管理することが可能になってきました。

たとえば、血糖値を測定するフラッシュグルコースモニタリングシステムはスマートフォンをかざすと血糖値を記録することもでき、測定結果を家族や主治医と共有することも可能です。また最近のインスリン注入器の中には、インスリン注入時間と投与量を記憶し、スマートフォンに記録することができるものもあり、血糖値などを記録する糖尿病管理アプリとの連携もできます。また、血圧計や体重計にも計測値がスマートフォンに自動的に記録される機種もあります。時計型などのウェアラブルデバイスは、装着しているだけで活動量(運動量)や心拍数、血中酸素濃度や睡眠時間など日常生活の記録が可能で、血圧や心電図などと連携できる製品も販売されています。

IoTの活用とメリット

IoTの技術を搭載した機械を利用すると、測定するだけでデータが自動的に記録されるので、手書きや自分で入力するよりも利便性が高く、長く続けることができると考えられています。また、測定データはパソコンやスマートフォンに記録として保存することができる上、家族や医療従事者などと共有することが可能です。リアルタイムの血糖変動、食事や運動などの日常生活の情報を収集することができるため、適切な時期に質の高い治療支援を受けられることがメリットです。

マイナンバーカードの保険証としての利用

現在、マイナンバーカードを保険証として利用することが進められています。これは、データを一元化するための取り組みのひとつです。初めての医療機関でも、特定健診情報や今までに使った薬剤情報が医師等と共有でき、より適切な医療が受けられるようになります。また、患者さんがご自分の特定健診情報や薬剤情報を閲覧できます。しかし、医療機関や薬局のセキュリティやシステムの互換性の問題により、まだ多くの蓄積された診療情報や検査データ、薬剤情報を一元化するには至っていません(2022年6月現在)。

糖尿病では重症化や合併症予防のために自己管理の継続が一つのカギとなります。デジタル医療を活用することで、より利便性が高く、適切な治療や指導が受けられる時代に向かいつつあります。今後は生まれた時からパソコンやスマートフォンが身近にある世代も増え、デジタル技術が応用された医療の恩恵を益々享受できるようになることが期待されています。

中神 朋子(なかがみ ともこ)
東京女子医科大学糖尿病・代謝内科

監修 [ごあいさつ]
東京女子医科大学内科学講座糖尿病・代謝内科学
教授・基幹分野長
馬場園哲也

編集協力
大屋純子、小林浩子、中神朋子、花井豪、三浦順之助、柳澤慶香
アイウエオ順

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