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糖尿病アカデミー

糖尿病と妊娠

                                                                        No.12

糖尿病があっても、元気な赤ちゃんを産むことはできます。しかし、血糖管理が不十分なまま妊娠すると、お母さんや赤ちゃんに合併症を引き起こします。妊娠についての正しい知識を持ち、お母さんになるための準備をしましょう。

血糖値と妊娠の関係

妊娠中は、胎児にエネルギー源である糖を与えるため、胎盤から血糖を上昇させるホルモンが分泌されます。そのため、インスリンが効きづらい状態となり、特に妊娠中期以降は必要なインスリン量が増加します。妊娠末期には、1型糖尿病の人で非妊娠時の1.5倍、2型糖尿病の人では2倍以上にインスリン必要量が増加すると言われています。
血糖管理が悪いと、お母さんや赤ちゃんに様々な影響が出ます。赤ちゃんの体が作られる妊娠初期に血糖値が高いと、流産や先天奇形の発生が高率となります。また、妊娠後期に血糖値が高い場合は、巨大児(4,000g以上の大きな赤ちゃん)となり、経膣分娩の際に難産となり、頭血腫、鎖骨骨折などの損傷が起こることがあります。さらに、お母さんの高血糖が赤ちゃんのすい臓を刺激してインスリンを多く分泌させていて、生まれたあと、赤ちゃんがかえって低血糖を起こします。また、赤ちゃんの臓器の発達が未熟だと、呼吸障害などが起こることがあります。
お母さんにみられる合併症としては、網膜症や腎症などの糖尿病合併症が悪化することがあります。特に妊娠前の血糖値が高い方では、妊娠後に急激な血糖管理をすると網膜症が悪化するため、注意が必要です。そのほか、尿路感染症、妊娠高血圧症候群、羊水過多症、早産なども糖尿病のある妊婦さんに多くみられる合併症です(表参照)。

妊娠する前の準備

糖尿病のある女性は、お母さんや赤ちゃんの合併症を予防するため、準備をして計画的に妊娠をする必要があります。

1.血糖血糖管理をしましょう。
赤ちゃんの奇形やお母さんの合併症予防のためには、妊娠前から血糖管理を良好にしておく必要があります。妊娠前のHbA1c(正常値4.6~6.2%)の目標値は7%未満、できれば6.2%未満を目指しましょう。

※血糖管理の指標となる数値で、過去1~2ヵ月の血糖値の平均を表します。

2.糖尿病合併症の検査をしましょう。
糖尿病網膜症がある場合には、治療をして安定した状態になってから妊娠しましょう。
また、妊娠前にすでに進行した糖尿病腎症がある揚合には、残念ですが妊娠はお勧めできません。

3.食事療法の見直しをしましょう。
肥満も妊娠中の高血圧や巨大児の原因となります。

4.糖尿病の飲み薬を使っている方はインスリン療法に切り替えましょう。
お母さんが飲んだ薬は、おなかの赤ちゃんに移行してしまいます。妊娠中でも使えるインスリン療法に切り替えましょう。

5.血圧のコントロールをしましょう。
妊娠中に使用できない血圧の薬があります。妊娠前に血圧の薬についても、主治医とよく相談して下さい。

妊娠中の血糖管理

妊娠中の血糖値は正常値を目指します。食前の血糖値は70~100mg/dL、食後2時間の血糖値は120mg/dL 未満が目標です。HbA1cも正常値である6.2%未満を目標にしましょう。また、妊娠中は2週間の血糖値の平均であるグルコアルブミン(正常値12.5~16.7%)も血糖管理の指標として測定します。グルコアルブミンの目標値は15.8%未満です。
妊娠中の糖尿病の治療は、食事療法とインスリン療法で行います。まず、食事療法ですが、妊娠中は赤ちゃんが健康に発育できるよう、十分なカロリーをバランスよく摂りましょう。また、血糖値を安定させ低血糖を防ぐために、1回の食事の一部を分けて食べる、分食という食事の摂り方も勧められます。
食事療法を行っても、血糖値が高い場合はインスリン療法が必要です。現在、日本ではたくさんの種類のインスリン製剤が使用されており、インスリン投与の方法もいろいろあります。妊婦さんの場合は妊娠していない時に比べ、厳格な血糖管理が必要なため、頻回法と呼ばれる1日4~5回インスリンを投与する方法や、場合によってはインスリン専用のポンプで、持続的にインスリンを投与する方法をお願いします。

 

分娩後の管理

母乳は赤ちゃんの免疫力※※を高めるなどの利点があり、糖尿病のあるお母さんも、もちろん母乳で赤ちゃんを育てることができます。ただし、母乳がたくさん出ると低血糖を起こしやすくなります。インスリンの量を調節したり、補食を摂ったり、低血糖にならないように注意しましょう。
そして、お子さんが一人前に成長するまで、合併症を発症せず元気に子育てできるよう、血糖管理に心掛けて下さい。

※※体の外から入ってきた細菌やウイルスに対する体の防御力です

柳澤 慶香(やなぎさわ けいこ)
東京女子医科大学糖尿病センター

次回は「糖尿病について悩みを相談できていますか」を予定しています。

監修 内潟 安子 [創刊によせて]
東京女子医科大学
東医療センター 病院長

編集協力
岩﨑 直子、尾形 真規子、北野 滋彦、中神 朋子、馬場園 哲也、廣瀬 晶、福嶋 はるみ、三浦 順之助、柳澤 慶香
(東京女子医科大学糖尿病センター)
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